アナリストの時間を「依頼対応」から「深掘り分析」へ。セガがAgentic Engineで変えたゲーム運営のデータ活用
要点
課題
SQLを書けるアナリストやエンジニアに、データ抽出やダッシュボード作成の依頼が集中していた。追加の深掘り依頼のたびにSQLを書き直すため、アナリストが本来注力すべき調査に時間を使いにくかった。日本と中国の共同運営では、日本語のダッシュボードを翻訳してから共有する必要があり、翻訳版の確認が3日後や1週間後になることもあった。
活用内容
イベント分析、ファネル分析、ユーザータグ、ユーザーシーケンス、AI翻訳を活用。SQLに依存せず、分析モデルを軸にレポートとダッシュボードを構築する運用に切り替えた。
成果
新規ユーザーのファネル分析やプラットフォーム別・国別の比較によって、問題の特定が速くなった。運営メンバーがリアルタイムにデータを確認し、会議で自らKPIを報告するようになった。AI翻訳により、多国籍のメンバーが同じダッシュボードを自分の言語で確認できるようになった。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ゲームタイトル名 | ペルソナ5: The Phantom X |
| 氏名 | 阿部 祐作様 |
| 部署・役職 | JA Studios 第2事業本部 戦略企画部 ビジネスアナリティクスセクション セクションマネージャー |
会社・プロダクト紹介
まず、ゲームタイトルの概要を教えてください。
阿部様:『ペルソナ5: The Phantom X(以下、P5X)』は、ペルソナシリーズ初のモバイル・PC向けRPG作品です。シリーズをすでに遊んだことがある方はもちろん、まだ触れたことがない方にもプレイしやすいゲームになっています。
このプロジェクトは、中国のパーフェクトワールド社とセガで共同運営し、アトラスが監修しています。配信地域もアジア、日本、グローバルと広がっているため、関係するプロジェクトメンバーは国際色豊かです。そのため、Agentic Engineで確認するダッシュボードも多言語である必要がありました。
ご担当の部署とミッションを教えてください。
阿部様:第2事業本部 戦略企画部 ビジネスアナリティクスセクションのマネージャーを務めています。ミッションは、プロジェクトに寄り添い、プロデューサーや意思決定者がデータに基づいて意思決定できるよう支援する組織を作ることです。
所属しているのは、主にモバイルゲームとPCオンラインゲームのプロジェクトを担当するアナリスト組織です。現在はコンシューマーゲームのデータを集めて分析するメンバーも所属しており、ひとつのゲームというより、あらゆるゲームのデータを取り扱う組織に近いと思います。私自身は主にモバイル領域を担当しています。
日常では、どのような場面でデータを使っていますか。
阿部様:運営型のゲームでは、ユーザーが今どういうプレイをしているかというログの収集が非常に重要です。買い切りのゲームと違い、ユーザーの皆さんは常にリアルタイムでプレイしています。運営側はそこにアップデートを重ね、期待に応え続ける必要があります。だからこそ、長く遊んでもらうためにどう運営していけばいいのか、その指針になるログを日々考え、収集しています。
ゲーム運営はスピード感が非常に速く、今日出したアップデートについて、明日には知りたいという速度感で相談が来ることもあります。1日で出せるものと出せないものはありますが、アップデートがあったら翌週の週頭から状況を報告し、打ち手を考えられる体制を整えておく必要があると考えています。

導入背景
これまでは、どんな体制とツールで回していましたか。
阿部様:現在の組織は、もともとオンラインPC向けタイトルを担当していた分析チームと、モバイルを担当していた分析チームが合併してできた経緯があります。そのため、使っていたBIツールや分析環境も異なっており、私自身はRedashなどを使っていました。
これまでのBIツールでは、SQLを書いてデータを集計し、その結果をもとにダッシュボードを構築する流れが一般的でした。SQLはアナリストやエンジニアであれば扱えますが、運営メンバー全員が書けるわけではありません。運営メンバーが「このデータを見たい」「こういう切り口で確認したい」と思った際には、まずアナリストに依頼が来ます。こうした依頼対応が積み重なり、アナリストの業務負荷になっていました。
導入前に困っていたことは何でしたか。
阿部様:SQLを書ける人に依頼が集中してしまうことです。しかも、依頼を受けてSQLを書き、集計して「こういう結果でした」と報告しても、そこで終わりではありません。「こういう軸で見たい」「セグメントを分けて見たい」といった追加の深掘り調査が発生します。SQLだと、そのたびに一から作り直すことがあり、アナリストにとって大きな負担でした。
アナリストとしては、プロジェクトを改善するための本質的な調査に時間を使いたい。一方で、運営側には直近で知りたいデータがあり、要望は日々届くため、優先順位の判断も必要になります。結果として、依頼対応に時間を使う比率はどうしても高くなりがちでした。
この状態を放置すると、どのようなリスクがありましたか。
阿部様:直ちに大きなリスクが発生するわけではないと思います。ただ、重要な課題に対して本質的な分析を行うためのリソースが、直近のデータ抽出や要望対応に取られ、深掘り調査に手がつけられない場合があります。
ゲーム運営はスピード感が重要です。後手に回ると、その時にはもうデータの鮮度が古くなっている可能性があります。導入しなかった場合、日々のデータ抽出に追われてアナリストが本来やるべき仕事に手をつけにくくなり、それがゲームの改善に影響を及ぼすことはあり得たと感じています。
理想の状態を一言で言うと、どのような状態でしょうか。
阿部様:アナリストの観点では、データ分析基盤に求められるのは正確性、即時性、網羅性だと考えています。データが正確でなければ現状把握を誤り、すぐに入ってこなければ状況確認が遅れ、必要なデータが取れていなければ知りたい情報にたどり着けず、対応が後手に回ります。
だからこそ、必要なデータを、正しく、すぐに、抜け漏れなく確認できる状態が理想です。これはアナリストだけでなく、運営メンバーや開発メンバーにとっても重要だと考えています。
選定理由・決め手
選んだポイントは何でしたか。
阿部様:多言語対応機能があったこと、カスタマーサポートとして活用できること、ゲーム特化型の分析ソリューションだったことの3点です。
多言語対応については、『P5X』は配信地域がアジア、日本、グローバルと広がっているため、ダッシュボードも多言語である必要がありました。以前は、日本側で作ったダッシュボードは日本語ベースになりがちで、そのまま海外メンバーに提供するのは難しく、レポートも一度翻訳してから共有する流れになっていました。
アナリストの知識があり、語学も堪能な人材は多くありません。語学力が高くてもアナリストの知識がなければ翻訳時に意味がずれ、アナリストが訳すとなれば大きなコストがかかります。
AI翻訳は、現場で役立っていますか。
阿部様:非常に役立っています。もちろん100%完璧な翻訳にはならないこともありますが、同じダッシュボードを見ていて相手側にもアナリストとしての知識があれば、多少の揺らぎは文脈で補完できます。
ゲーム運営ではスピードが重要です。日本語のレポートをすぐ確認できても、翻訳版を確認できるのが3日後、1週間後になると、その時にはもうゲームの状況が変わっていることもあります。だからこそ翻訳にも即時性が求められます。最近は翻訳の精度も高く、速度だけでなく品質も十分についてきている印象です。
もともとAgentic Engineでは、中国語、韓国語、英語への表示切り替えができました。メニューなど、あらかじめ設定されている項目は言語を変更できます。一方で、ユーザーが入力したコメントやレポート名などは日本語のまま残ることがありました。そこにAI翻訳を入れてもらったことで、ユーザー入力の内容も閲覧している言語に合わせて翻訳されるようになりました。入力する側はこれまで通り日本語でダッシュボードを作ればよく、見る側は自分の言語に翻訳された状態で確認できます。これは非常に有用な機能だと思います。
カスタマーサポートとして活用できる点も、選定ポイントでしたか。
阿部様:カスタマーサポートの観点では、ユーザーからの問い合わせに対して、そのユーザーがどういう行動を取っていたのか、前後の関係も含めて確認できる環境が必要でした。これを一から作るとなると、ログ分析環境をひとつ作るぐらいのコストがかかります。その機能がすでにAgentic Engineに入っていた点は大きかったです。
ユーザーシーケンス機能はカスタマーサポートで使える機能として導入しましたが、データ分析にも活用できます。
ゲーム業界に強い分析ソリューションであることについては、どう感じていますか。
阿部様:Agentic Engineには、イベント分析、ファネル分析、リテンション分析など、ゲーム運営に必要な分析モデルと分析環境が用意されています。ゲーム運営では、日々のユーザー行動を見ながら、どこでつまずいているのか、プラットフォームで違いがあるのか、国別で違いがあるのかを確認する必要があります。そうした分析に必要な分析モデルが最初から用意されていることは大きいと思います。
活用方法
日常的によく使う分析・機能は何ですか。
阿部様:特に便利だと感じた機能のひとつが、分析の粒度変更です。SQLで集計する場合、日ごとのデータと月ごとのデータでは別々のSQLを書かなければならないことがあります。たとえばユニークユーザー数を集計する場合、デイリーのKPIを週次や月次で見たいと言われると、その都度SQLを書き直す必要があります。Agentic Engineでは、ひとつの分析モデルで集計しているデータを、月ごとや期間合計にワンクリックで切り替えられます。
もうひとつがタグ機能です。特定のセグメントに該当するユーザーにタグを付けておくと、作成したダッシュボードやレポート上で、そのタグをもとにフィルターをかけたり、グループ分けしたりできます。セグメントごとのKPIをすぐに確認できる点が便利です。
さらに、タグは最新の状態に自動更新できるだけでなく、過去の状態も保持できます。運営では「当時の状況と今の状況を比較したい」というケースがよくありますが、当時のユーザーのタグ状態と現在のタグ状態は必ずしも一致しません。Agentic Engineでは過去と現在の両方を見られるため、時点をまたいだ比較がしやすい点も非常に良いと感じています。
Agentic Engineでは、なぜ極力SQLを書かない運用をしているのでしょうか。
阿部様:Agentic Engineを使う際は、できるだけSQLクエリを書かず、イベント分析などの分析モデルで実現する方法をまず検討しています。多少工夫が必要でも、分析モデルを使った方が、タグ機能などAgentic Engineの利点を活かしやすいからです。
分析モデルで作っておくと、プロジェクトメンバーもそれを参考にしながら、自分たちで分析を進めやすくなります。「この形で用意しておきました」というサンプルを作っておけば、そこから知りたい部分を深掘りできます。一方SQLクエリは、コピーはできても、SQLがわからない人には内容を読み解いたり修正したりするのが難しい。分析モデルであれば、SQLに詳しくない運営メンバーでも操作しやすく、実際にそれをベースに自分で触ることもあります。
もちろん、複雑な分析ではSQLクエリで加工を書く場面もあります。ただ、「SQLでなければできない分析」は実はそれほど多くないかもしれません。現状では、統計的な傾向を見るというより、「このユーザーはどういう状況なのか」をユーザー単位で確認したい場合などにSQLを使っています。
代表的なユースケースを教えてください。
阿部様:新規ユーザーの分析では、ファネル分析を使って、どのポイントでつまずいているかを調査しています。また、プラットフォーム別や国別に違いがないかを比較しながら分析することもあります。こうした分析によって、問題の特定にはかなりスピード感が出てきたと思います。
成果
どのような成果が出ていますか。
阿部様:導入して良かったことのひとつは、運営メンバーがデータを見やすい環境を作れたことです。リアルタイムでデータが入ってくるため、サービス開始時には1分単位のデータを見ながら、ユーザーが来てくれていることを皆で確認できました。これはとても印象に残っています。
また、粒度変更やタグ機能によって、SQLを書き直さなくても見たい切り口でデータを確認できます。分析のたびにSQLを修正する必要が減り、分析スピードの向上にもつながっています。
サポート・評価
サポート体制の評価を教えてください。
阿部様:非常に満足しています。特に大きいのは、ゲーム運営のスピードに合わせて迅速に対応してもらえる点です。ゲーム運営では状況の変化に素早く対応する必要がありますが、ThinkingAIは問い合わせや要望にスピード感を持って対応してくれるため、とても助かっています。
「これは個別対応ではなく、プロダクト自体をアップデートする必要があるのではないか」と思うような内容に、2〜3ヶ月ほどで対応してもらえたことがありました。運営のスピードに寄り添ってもらえるサポート体制だと感じています。
Agentic Engineをどのようなツールとして評価していますか。
阿部様:大きな特長は、非アナリストでも使いやすいツールである点です。一方で、アナリストだからこそ実感できる良さも多くあります。アナリストの業務では、SQLを書く作業や、データ分析そのものではないデータクレンジングに時間を取られることがあります。Agentic Engineではそうした作業を簡略化できるため、よりスムーズに分析へ進めます。
日々アナリストが感じている課題や、かゆいところに手が届く部分が多い。そこがAgentic Engineの大きな魅力だと考えています。
組織への波及と文化の変化
導入後、会議の進め方や現場の自走に変化はありましたか。
阿部様:導入前は、会議にアナリストが参加し、KPIや運営状況を報告することが多かったと思います。現在は、運営メンバー自身がKPIの状況や運営状況を報告する場面が増えています。私たちアナリストは、必要に応じて、より深く調査した結果をその場で共有する役割を担っています。
つまり、日々の状況把握やKPI報告は、運営メンバー主導で進むようになってきています。運営ディレクターやリーダー、プロジェクトオーナーなど、プロジェクトの主要メンバーは日常的にAgentic Engineを見ている方が多いと思います。
数値を扱う立場の方は、自らAgentic Engineを使って調査することもあります。わからないことがあれば「これはどうやったらできますか」と私に質問が来ることもあり、運営メンバーが自分たちでデータを見にいく動きが生まれています。
今後の展望
Agentic Engineに期待する機能や活用領域を教えてください。
阿部様:将来的には、Agentic EngineでもAI活用がさらに進むことを期待しています。すでにAI翻訳が入っていることからも、AIとAgentic Engineの親和性は高いと感じています。データも整理された形で格納されているため、AIが理解しやすい状態で管理されているのではないかと思います。今後は、AIによるデータの要約、示唆出し、アラートなどの領域に発展していくと、さらに活用の幅が広がると考えています。
また、多言語対応については、辞書のような機能があるとより使いやすくなると思います。ゲームには固有の専門用語や、翻訳せずにそのまま扱いたい名称があります。そうした言葉を適切に管理できるようになると、さらに便利になるはずです。
最後に、Agentic Engineの導入を検討している方に向けてメッセージをお願いします。
阿部様:Agentic Engineは、非アナリストでも使いやすい分析ソリューションです。一方で、アナリストにとっても非常に便利なツールだと感じています。日々の業務でアナリストが困りがちな部分に手が届くため、アナリストがいないプロジェクトだけでなく、アナリストがいるプロジェクトでも価値を感じられるのではないでしょうか。
企業紹介
株式会社セガ
家庭用ゲーム機、スマートデバイス、PC等のさまざまなプラットフォーム向けのゲーム関連コンテンツに関する企画・開発・販売・運営を手掛け、日本国内及び海外のスタジオやグループ企業が開発したゲームコンテンツを全世界に向けて提供しています。
「セガ」ブランドの『ソニック』や『龍が如く』、『ぷよぷよ』、そして「アトラス」ブランドの『真・女神転生』や『ペルソナ』など、高いIP力を持つシリーズを展開しています。これらに加え、大型オンラインタイトル『PSO2 ニュージェネシス』やスマートデバイス向けの『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』や『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』など、あらゆるデバイスに向けて多彩なゲームコンテンツを国内外へご提供しています。さらに海外においても開発・販売拠点を置き、海外市場で大きな支持を集める『Total War』や『Football Manager』をはじめ、現地のニーズを捉えた独自のコンテンツ制作を行い、全世界へ展開しています。
また、ゲーム事業を通して培ったノウハウや資産を活かし、ゲームに留まらない独創的な新規事業の展開を進めています。

